東京の味

大井町の「永楽」は東京ラーメンのひとつ。でも、いわゆる地方というか全国的に受ける味ではない(と思う)ので、雑誌などでは取り上げられる事はほぼない、いわゆる地元の味の店。初めて食べた人から「上等な味に感心」とか「東京の味!」と、絶賛された、という話は聴いた事がない。ないから、全国的基準からすれば、大したことはないのかもしれない。実際、友人を今迄数10回連れて行ったが、評価は半々。九州小倉出身で「博多ラーメンより東京には美味しいラーメンが多い」というラーメン通の先輩デザイナーを一度連れて行ったが、彼は「初めて食べた東京の味。」で、先輩は翌日友人を連れて行った、というのが記憶に残る感想の一つ。
そもそも、ボクなどはこの店が残った事が凄いと思う訳だ。そういう「味」が何一つ変わる事なく65年以上もあるというのが凄い。しかも、最近迄大盛り駄目。300円台をキープしてた。(現在は600円。急な高騰に驚く。)
遡ること60年以上前の戦後。焼け野原の東京。空襲の後の銀座。「和光」だけが残り後はガレキの写真、があるでしょう?ああいう感じの東京。未経験者にとっては経験者の話は耳にタコが出来るくらい聞いたなあ。今考えれば、「神戸の震災から現在と同じ時間差」なのだ。
ボクが始めて行った頃は、屋台から一軒家になって、ようやく商売に安定感が生まれ始めた時期か。父が連れて行ってくれたのは、父の実家(長屋だ)が豊町で大井町近く、久しぶりに行くのについて行った。その狭い路地が今でもそのまま残っている。地元の人はそれは栄誉な事だと思っていない、と思う。早く新しくしたいのだ(きっと)。
それに反してボクは路地が好き。良い感じの「狭い路地」はまだ東京各所に残っている。知っている限りでは、銀座・やねせん(谷中根津千駄木の事)・三軒茶屋・新宿・神保町周辺・などなど。先日渋谷の「恋文横町」を見に行ったら、路地だけはこの前まであったと思ってたけど、今じゃ「記念碑」があるだけ。
こういう場所を新しい場所に切り替えて生き残って来たニホンジンだけど、なくなったものは帰ってこないから記録だけはしておいた方が良いなあ。
「味」は記憶や記録だけではなく、現物として残って行くところが凄い生命力。進化しない味に乾杯だ。ビールに餃子もつけちゃお。
ちなみに永楽と同じ「揚げネギ」で有名な「渋谷・百軒店(ひゃっけんだな)の喜楽」も古いんだけど、「永楽」より20年以上も後に行きました。