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沢木耕太郎著「テロルの決算」は26才の時にコピーライターである師匠(故人)から薦められて読んだ。ピュリッツアー賞を撮った写真で有名な、あの「浅沼稲次郎刺殺事件」を追ったドキュメントである。刺された社会党委員長と刺した17才の右翼の青年との間にあった深い溝をゆっくりと、慎重に遡っていく。彼らを取り巻く複数の人間の時間軸は草の根のように枝分かれして、複雑だ。それが丹念に溶かれていく様は同時に自分が包括していた問題も解けていくようであった。
ドキュメントとはまるで必然の様に絶妙な配置を演出した光景を産む。その裏側の二人の物語の源流にたどり着く時、写真から随分と離れた見晴らしの光景が広がっていた。(1978年初版)